MAツールの使い方は何が変わるのか:配信する道具から任せる相手へ
久しぶりにMAツール(マーケティングオートメーション)の導入相談を受けて、10年前とほとんど同じ説明をしている自分に気づきました。見込み客の行動に点数をつけ、条件に合った人へ自動でメールを送る。仕組みの説明としては、いまも間違っていません。ただ、その話と、各ベンダーが2025年から立て続けに出している「AIエージェント」の発表が、どうにもつながらない。過去の使い方のどこが残り、どこが変わるのか。国内の導入実態の調査と、主要ベンダーの一次発表を並べて確かめました。
MAツールの役割は、人が決めた手順を自動で流す装置から、AIに判断させる材料を揃える基盤へ移りつつあります。
MAは「手順を自動で流す装置」として広まった
これまでのMAツールは、人間が事前に手順を決められることを前提に設計されていました。資料をダウンロードした人に3日後にメールを送る。特定のページを2回見たら点数を加算する。合計点が一定を超えたら営業に渡す。条件と分岐をあらかじめ書き出し、その通りに実行させる道具です。
この前提には、いま思えばかなり強い仮定が2つ入っています。ひとつは、見込み客がフォームに名前とメールアドレスを置いていってくれること。もうひとつは、送ったメールが開かれること。どちらも、買い手が情報を集める入口が企業のWebサイトだった時代の話です。
市場そのものも、この時期に大手のスイート製品へ吸収されていきました。アドビは2018年にMarketoを買収し、自社のExperience Cloudに組み込んでいます。当時の発表では、Marketoは「the market leader for B2B marketing engagement」と表現され、約5,000社の顧客を抱えていたと書かれています※1。単体のツールからスイートの一機能へ、という流れがここで決まりました。
日本ではどれだけ使われてきたのか
導入の実態を、企業サイトにMAツールのタグが実装されているかどうかで数えた調査があります。デジタルマーケティングのコンサルティング会社Nexalが継続的に実施しているもので、時系列で追える数少ない資料です。
| 調査時期 | 調査対象 | MA実装 | 導入率 |
|---|---|---|---|
| 2017年5月 | 332,688社 | 1,677サイト | 0.5%※2 |
| 2021年1月 | 576,946社 | 6,866サイト | 1.2%※3 |
| 2023年5月 | 626,003社 | 9,444社 | 1.5%※4 |
6年で3倍。伸び率だけ見れば順調です。ところが絶対値は1.5%にとどまります。上場企業に限ると3,850社中562社で14.6%まで上がり※4、2021年1月調査の11.3%※3から着実に増えてはいるものの、これも7社に1社です。
正直に言うと、この数字は筆者の肌感覚より低いものでした。仕事で会う人はたいてい入れているので、普及したつもりでいた。実際には、MAツールはいまも大企業とその周辺の道具のままです。
もうひとつ気になったのが、2023年の調査で上場企業のMA導入企業562社のうち85社(15.1%)が2種類以上を実装していた点です※4。4種類を並べている企業も2社あります。乗り換えの途中なのか、部署ごとに別々に契約したのか、この調査からは読み取れません。ただ、1つ入れれば解決という道具ではなかったことは伝わってきます。
これから:手順を組む人から、任せる相手を管理する人へ
2025年以降のベンダー発表を読むと、方向がきれいに揃っています。共通しているのは、人が分岐を組み立てる工程そのものを外しにきていることです。
アドビは2025年3月18日のAdobe Summitで、Adobe Experience Platform Agent Orchestratorを発表しました。自社と第三者のAIエージェントを構築・管理・連携させる基盤で、同時にAudience Agent、Content Production Agent、Journey Agent、Site Optimization Agentなど10種類の専用エージェントが並びました※5。かつてマーケターが画面上で組んでいたジャーニーや、切り出していたオーディエンスに、そのままエージェントの名前がついています。
翌年の2026年4月20日には、CX Enterpriseを発表しました。「AIエージェント、エージェントスキル、Model Context Protocol(MCP)のエンドポイントを、インテリジェンスとガバナンスの層とともにまとめた、エンドツーエンドのエージェンティックAIシステム」という説明です※6。MCPは、AIが外部のツールやデータにつながるための共通の口で、別記事のLLMとMCPの話で扱った仕組みです。マーケティングの基盤がそれをエンドポイントとして持ち出したことになります。
ハブスポットも同じ年の2025年9月3日、INBOUND 2025で200件を超える製品アップデートを発表し、15以上のBreeze Agentsを展開しました※7。人とAIの混成チームをどう作るか、という枠で語られています。
ここで起きている変化を、筆者は次のように整理しました。
| 過去型の使い方 | これから型の使い方 | |
|---|---|---|
| 人が決めること | 分岐の条件と配信の手順 | 目的・予算・やってはいけないこと |
| ツールに任せること | 決めた手順の実行 | 手順の設計と実行の両方 |
| 成果を左右するもの | シナリオ設計の巧拙 | 渡すデータと目的定義の質 |
| 主な出口 | メール配信 | 会話・接客・チャネル横断 |
| 人に必要な技能 | 管理画面の操作 | 目的の言語化と、結果の検収 |
過去型が間違っていたわけではありません。前提が変わりました。買い手はもう、フォームに名前を置く前に大半の情報を集め終えています。会社の買い物が購買グループで決まる以上、一人の見込み客に点数をつける発想も届く範囲が限られる。検索からサイトへ来る人自体がAI検索の普及で減っている。入口が細くなった分、手元にある顧客データをどう解釈するかへ重心が移ったと見るのが自然です。
そして重心がデータへ移るほど、データウェアハウスの整備状況がそのまま成果に出てきます。エージェントは、渡されたもの以上のことは判断できません。
調べても分からなかったこと
導入率の推移は追えました。一方で、導入した企業のうち何割が実際にシナリオを動かしているのか、いわゆる「使えているか」を測った中立的な調査には届きませんでした。この論点を扱った日本語の記事は多いのですが、手が届いた範囲ではいずれもMAツールの提供企業やその支援会社が書いたもので、調査手法も対象社数も公開されていません。自社サービスの案内を兼ねた文章を、活用率の根拠には使えないと判断して外しました。
もうひとつ、Nexalの実装調査は2023年5月分が最新で、2026年8月の時点で続報を見つけられませんでした。生成AIが業務に入り込んだ2024年以降、この数字がどう動いたのかは空白のままです。分かり次第、追記します。
まとめ
MAツールの過去の使い方は、人が手順を全部書き、ツールがその通りに動くというものでした。これからは、人が目的と制約を書き、エージェントが手順ごと引き受ける形に寄っていきます。アドビもハブスポットも、2025年から2026年にかけての発表でそこを明確に示しました※5※6※7。
だとすると、「MAツールを使いこなす」という言葉の中身が入れ替わります。覚えるべきは管理画面の操作ではなく、達成したい状態を曖昧さなく書く力と、出てきた結果が本当に妥当かを見抜く力のほうです。前者は道具が変わればゼロになりますが、後者は残る。筆者はそう見ています。
国内の導入率1.5%という数字を思い出すと、多くの会社にとっては「過去型を経ずに、いきなりこれから型から始める」という選択肢もあるはずです。遅れて始めることが不利にならない時期は、そう長くは続かないと思いますが。
参考文献・出典
※1 : 「Adobe Expands Customer Experience Leadership with Addition of Marketo」 |Adobe Blog https://blog.adobe.com/en/publish/2018/10/31/adobe-to-acquire-marketo
※2 : 「2017年上期 国内33.3万社のMAツール実装調査」 |Nexal https://www.nexal.co.jp/blogs/2017f1-ma-survey.html
※3 : 「2021年1月国内58万社のMAツール実装調査を実施 ~上場企業のMAツール導入率は11.3%~」 |Nexal https://www.nexal.co.jp/blogs/20210513.html
※4 : 「2023年5月国内63万社のMAツール実装調査を報告 ~コロナ前と比較して導入企業数は2倍~」 |Nexal https://www.nexal.co.jp/blogs/20230930.html
※5 : 「Adobe Launches Adobe Experience Platform Agent Orchestrator for Businesses to Activate AI Agents in Customer Experiences and Marketing Workflows」 |Adobe News https://news.adobe.com/news/2025/03/adobe-launches-adobe-experience-platform-agent-orchestrator-for-businesses
※6 : 「Adobe Summit: Adobe Redefines Customer Experience Orchestration Vision in the Agentic AI Era with Introduction of CX Enterprise」 |Adobe News https://news.adobe.com/news/2026/04/adobe-redefines-custome-experience
※7 : 「HubSpot unveils blueprint to building hybrid human-AI teams with 200+ product updates at INBOUND 2025」 |HubSpot Investor Relations https://ir.hubspot.com/news-releases/news-release-details/hubspot-unveils-blueprint-building-hybrid-human-ai-teams-200
よくある質問
MAツールの従来の使い方はもう通用しないのですか?
通用しなくなったというより、人が決める範囲が変わりました。スコアリングやシナリオ配信の考え方自体は残りますが、アドビやハブスポットの2025年以降の発表は、分岐の手順を人が組み立てる前提を外し、AIエージェントに実行させる方向で揃っています。人の仕事は手順の作成から、目的とガードレールの設定に移りつつあります。
日本企業のMAツール導入率はどのくらいですか?
Nexalの実装調査では、国内企業約63万社のうちMAツールを実装していたのは9,444社で導入率1.5%でした(2023年5月時点)。上場企業3,850社に限ると562社・14.6%です。2017年の0.5%からは伸びていますが、全体で見れば広く普及した状態とは言えません。
AIエージェント時代にMAツールで重要になるのは何ですか?
エージェントに渡すデータと、目的の書き方です。手順を人が固定しない分、判断材料になる顧客データの整理状況と、達成したい状態をどれだけ具体的に定義できるかが結果を左右します。管理画面の操作習熟よりも、目的を言語化する力と出てきた結果を検収する力の比重が上がります。