いまアメリカのマーケティングで話題の3つの潮流を深掘りする


日本のマーケティングの話題は、数年遅れでアメリカを追いかけることがよくあります。ならば向こうでいま騒がれていることを先に知っておけば、少し未来の予習になるはず。そう思って、直近のアメリカのマーケティング界隈で繰り返し目にする言葉を調べていくと、話題は3つの塊に集約されていきました。そしてこの3つ、別々の流行に見えて、根っこは同じ地殻変動でした。

3つに共通するのは「消費者の入口が、検索結果のページからAIと小売サイトへ移りつつある」という同じ変化です。

潮流1:エージェンティックコマース — チャットの中で買い物が終わる

いちばん派手な動きは買い物の入口です。2025年9月29日、決済大手StripeはOpenAIと共同で、ChatGPT内で商品を直接購入できる「Instant Checkout」と、それを支えるオープン標準「Agentic Commerce Protocol(ACP)」を発表しました※1。米国のChatGPTユーザーは、チャットの中でEtsyやShopifyの加盟店の商品をそのまま買えます※1。

注目すべきはACPが「事業者とAIエージェント間の共通言語」を名乗るオープン標準で、Stripeで決済していない事業者でも既存の決済プロバイダーのまま導入でき、あらゆるAIエージェントで機能するとされている点です※1。つまり特定アプリの新機能ではなく、「AIが買い物を代行する時代の共通レジ規格」を作りにいっている。AIエージェントに財布と身元を持たせるCloudflareの動きが買い手側の整備だとすれば、ACPは売り場側の整備です。マーケティングへの含意ははっきりしていて、これからは人間に見せる商品ページと別に、「AIが読んで選べる商品データ」が新しい棚になります。

潮流2:GEO — 検索順位ではなく「AIの回答」に入る

2つめは、このブログでも追いかけてきたテーマの米国での盛り上がりです。GEO(Generative Engine Optimization)は、ChatGPT、Google AI Overviews、Perplexityといった生成AIが回答を作るときに、自分のコンテンツやブランドが引用・推奨されるように最適化する取り組みを指します※2。

業界メディアSearch Engine Landのガイドは、規模感をこう伝えています。GoogleのAI Overviewsは月間20億ユーザーに達し、ChatGPTは週間8億ユーザー。調査会社Gartnerは従来の検索量が25%減るとの見通しを示しています※2。同ガイドが強調するSEOとの違いは椅子の数で、従来の「検索結果の10リンク」に対し、AIの回答が引用するのは2〜7ドメイン程度※2。入れれば強力な推薦になり、外れれば存在しないのと同じ。この非情さが、米国でGEO専門ツールやコンサルが乱立している理由のようです。検証のやり方はAEOの検証方法の記事に書いたとおりで、日本語圏ではAEOという呼び名で流通している同じ動きです。

潮流3:リテールメディア — 小売サイトが広告メディアになる

3つめは、AIブームの陰で静かに巨大化している金脈です。リテールメディアとは、小売事業者が自社のECサイト・アプリ・購買データを広告枠として外部ブランドに売るビジネスのこと。棚を貸していた小売が、画面と購買データも貸し始めた、と言えば実態に近いと思います。

規模の見当として、調査会社eMarketerはAmazonのリテールメディア収益だけで2028年に750億ドルを超えると予測しています※3。1ドル150円なら11兆円超。ひとつの小売企業の「広告」収益が、です。強さの源泉は購買データにあります。検索広告やSNS広告が「興味がありそうな人」に当てるのに対し、リテールメディアは「実際に買った人・今買おうとしている人」のデータで当てられる。しかもAIチャット経由の購買(潮流1)が増えるほど、購買データを握る場所の価値はさらに上がります。日本でも楽天やAmazon.co.jpで同じ構図が進んでおり、ここは時差の小さい潮流です。

3つはひとつの変化の断面(筆者の整理)

議論の前に、ここまでに出てきた検証済みの数字を1枚にまとめます。

数字何の数字か出典
月間20億人GoogleのAI Overviewsの利用者※2
週間8億人ChatGPTの利用者※2
25%減Gartnerによる従来検索量の予測※2
2〜7ドメインAIの回答が引用するサイトの数※2
750億ドル超Amazonのリテールメディア収益(2028年予測)※3

検索の全盛期を作った「10本の青いリンク」の世界と比べると、入口の数字がすでに桁で動いていることが分かります。並べてみると、3つの潮流は同じ変化を別の角度から見たものだと分かります。消費者の入口が「検索結果のページ」から、AIの回答(GEO)、AIの代理購買(エージェンティックコマース)、小売サイトの中(リテールメディア)へ分散している。共通して起きているのは、ブランドと消費者の間に「新しい仲介者」が挟まる変化で、マーケティングの仕事は「人にどう見せるか」に加えて「仲介者(AIと小売のアルゴリズム)にどう選ばれるか」へ広がっています。

マーケティングフレームワークに製造年月日があったように、この3つの潮流もいつか古びるはずです。ただ、入口が動くときにマーケティングの教科書が書き換わるのは、AIDMAからAISASへの更新で一度見た光景でもあります。

調べても分からなかったこと

  • 米国リテールメディア市場全体の規模。調査会社の予測(2026年に約700億ドル規模とする報道)を複数見かけましたが、原典レポートは有料の壁の先で、無料で確認できたのはAmazon単体の予測※3のみでした。
  • Instant Checkout経由で実際にどれだけ売れているのか。発表から1年近く経ちますが、流通額の公表は見つけられませんでした。

まとめ:予習しておくべきは「仲介者に選ばれる技術」

潮流何が起きているか日本への含意
エージェンティックコマースChatGPT内で購入完結、共通規格ACPが登場※1AIが読める商品データの整備
GEO検索順位からAI回答への引用競争へ※2AEOとして既に上陸、検証体制づくり
リテールメディア小売の購買データが広告の主戦場に※3楽天・Amazon等で進行中、時差小

3つの潮流の予習が教えるのは、「消費者に届く前に、AIか小売プラットフォームを通る」導線が標準になりつつある、という一点です。そのうえで筆者の見立てを言い切っておくと、日本の実務に効いてくる順番はリテールメディア→GEO→エージェンティックコマース。理由は単純で、日本との時差が小さい順だからです。

予習を明日の行動に変えるなら、この3つから始められます。

  1. GA4の参照元レポートで「chatgpt.com」「perplexity.ai」を検索し、AI経由の流入がすでに来ていないか確かめる
  2. 自社の商品・サービスについて顧客が聞きそうな質問を5つ、ChatGPTとPerplexityに投げ、引用されるのが自社か競合かを記録する(月1回の定点にする)
  3. 出店しているECモールの広告メニュー資料を取り寄せ、検索連動枠の単価と、自社カテゴリーの競争状況を把握する

名前の新しい手法ほど、確認の入口は地味です。この3つで「対岸の話」か「もう始まっている話」かが、自社の数字で判別できます。

参考文献・出典

※1 : 「Stripe、OpenAI と共同開発の Agentic Commerce Protocol (ACP) を公開 ChatGPT の Instant checkout 機能を支援」 |Stripe Newsroom https://stripe.com/newsroom/news/stripe-openai-instant-checkout

※2 : 「Mastering generative engine optimization in 2026: Full guide」 |Search Engine Land https://searchengineland.com/mastering-generative-engine-optimization-in-2026-full-guide-469142

※3 : 「Retail Media Ad Spending Forecast H1 2026」 |eMarketer https://www.emarketer.com/content/retail-media-ad-spending-forecast-h1-2026

よくある質問

エージェンティックコマースとは何ですか?

AIエージェントが人に代わって商品を探し、購入まで実行する商取引の形です。2025年9月にOpenAIとStripeがChatGPT内で購入を完結できる「Instant Checkout」と、その共通規格「Agentic Commerce Protocol」を発表したことで、一気に現実の話になりました。

GEOとSEOはどう違うのですか?

SEOは検索結果の一覧で上位に入りクリックされることを目指します。GEO(生成エンジン最適化)は、ChatGPTやAI Overviewsなどが生成する「回答」の中で引用・言及されることを目指します。回答に引用されるのは少数のサイトだけなので、椅子の数が大きく減った競争ともいえます。

リテールメディアとは何ですか?

小売事業者が自社のECサイトやアプリ、購買データを広告媒体として外部ブランドに販売するビジネスです。米国ではAmazonが代表格で、調査会社eMarketerはAmazonのリテールメディア収益が2028年に750億ドルを超えると予測しています。